2025年下期IT転職市場分析:40代エンジニアのリアルと戦略

キャリア

10/26/2025

はじめに

2025年下半期、日本のIT転職市場は大きな転換期を迎えています。アメリカではアクセンチュアをはじめとする大手テック企業が「AI対応できない人材」の大規模リストラを実施し、日本でも同様の動きが広がるのではないかという懸念が高まっています。

特に40代のITエンジニアにとって、この状況は不安を感じる要因となっているでしょう。しかし、実際の日本市場を詳しく見てみると、状況は想像とは異なる側面があります。

この記事では、2025年下期の日本IT転職市場を40代エンジニアの視点から徹底分析し、米国との違い、実際の雇用動向、そして今後のキャリア戦略について解説します。

2025年下期のIT転職市場:全体像

人手不足が続く売り手市場

2025年下半期のIT転職市場は、引き続き活況を呈しています。ITエンジニアの有効求人倍率は3.52倍に達しており、全職種平均の約1.48倍を大きく上回っています。情報サービス業界では企業の72.5%が正社員不足を感じている状況です。

この背景には、企業のDX推進やデータ利活用のニーズ増加があります。生成AIやデータを活用する機運が高まり、AI/機械学習エンジニア、データエンジニアなどの求人が急増しています。実際、生成AI関連スキルを求める求人は2021年の55件から2025年5月には約1万件へと約182倍に急拡大しました。

年収上昇トレンド

ITエンジニアの平均年収は直近で700万円を超え、増加傾向にあります。特に40代IT転職者では、転職により平均約50万円の年収アップを実現しており、若手と比べても遜色ない待遇改善が見られます。

50歳以上のITエンジニアに至っては、転職時に賃金が1割以上アップした割合が2019年の12.9%から2024年には20.8%まで増加しており、ミドル・シニア層でも転職による待遇改善が現実的になっています。

生成AI求人の爆発的増加

2025年のIT転職市場で最も顕著なトレンドは、生成AI関連職種への需要急増です。AIエンジニアの求人は前年比143.2%増、AIソリューションアーキテクトは109.3%増となっています。

プロンプトエンジニアという新職種も登場し、平均年収は818万円に達しています。データエンジニア、データサイエンティスト、セキュリティエンジニア、クラウドエンジニア(AWS/GCP/Azure)といった職種も引き続き高い需要を維持しています。

米国と日本の違い:アクセンチュアの事例から

米国での大規模リストラの実態

2025年9月、アクセンチュアはグローバルで約8億6500万ドル(約1300億円)規模のリストラ計画を発表しました。直近3ヶ月間で1万1000人以上の人員を削減し、CEOのジュリー・スウィートは「必要なスキルへのリスキリングが現実的ではない人々の退職を進めている」と明言しています。

注目すべきは、これが業績悪化によるリストラではなく、AI時代に向けた戦略的な人材再編である点です。アクセンチュアは人員削減と同時に、AI・データサイエンス・クラウド分野での新規採用を継続しており、「AIスキルを持たない人材を減らし、AIスキルを持つ人材を増やす」という選択的再配置を進めています。

他の米国テック企業も同様の動きを見せています:

  • マイクロソフト:15,000人削減(全体の7%)、コード生成の20-30%がAIツールに

  • Meta:3,600人削減、低業績者を迅速に退出させる方針

  • IBM:9,000人削減、人事関連業務の30%をAIで自動化

2025年第1四半期だけで、テック業界全体で2万4,401人が解雇され、90社以上が人員削減を実施しています。

日本における状況:限定的な影響

一方、日本国内の状況は米国とは大きく異なります。アクセンチュア日本法人の広報は「今回の発表はグローバル全体の指針であり、日本法人も含まれるが、日本では引き続き好調を維持しており、影響は極めて限定的」とコメントしています。

実際、日本法人は2025年8月にシステム開発・コンサルティング会社のSI&Cを買収し、国内市場でのプレゼンス強化を図っています。また、日本のIT系コンサルティング各社は、システム開発に詳しいITエンジニア経験者を年間数百人から1,000人以上規模で採用し続けています。

この違いの背景には、以下の要因があります:

  • 日本のIT人材不足の深刻さ:経済産業省の試算では、2030年までに最大79万人のIT人材が不足すると予測されています

  • DX推進の遅れ:日本企業の約6割以上がDX人材の量が「大幅に不足している」と回答しており、特にビジネスアーキテクトの不足が顕著です

  • レガシーシステムの維持需要:「2025年の崖」問題により、老朽化したシステムの維持・刷新に精通した人材への需要が高まっています

日本企業の黒字リストラ:AI以外の要因

増加する黒字リストラ

日本でも「黒字リストラ」自体は増加傾向にあります。2025年1-9月に早期・希望退職を実施した上場企業34社のうち、約60-83%が黒字企業という状況です。

主な事例としては:

  • 三菱ケミカル:50歳以上の事務系社員約4,600人を対象に希望退職募集、費用300億円を計上

  • パナソニックHD:国内外で計1万人規模の人員削減(12年連続黒字)

  • 三菱電機:53歳以上を対象に希望退職募集(過去最高益更新中)

AI淘汰ではなく構造改革

しかし、これらは主に年功序列制度による人件費負担の削減や事業構造改革が目的であり、米国企業のような「AI対応できない人材の淘汰」という明確な方針とは性質が異なります。製造現場は対象外とし、事務系社員に絞った削減が多いのも特徴です。

日経ビジネスの分析でも、「日本企業の黒字リストラは過去最高益でも人員削減を行う新たな経営戦略だが、AI対応というよりは固定費削減と組織の若返りが主目的」と指摘されています。

40代IT人材の転職実態

企業の採用意欲は高い

40代のIT人材に対する企業の採用意欲は想像以上に高い水準にあります。レバテックの調査によると、IT人材を採用する企業担当者の約75%が「40代以上のIT人材を採用した経験がある」と回答しています。

これは、40代IT人材が持つ豊富な実務経験、トラブルシューティング能力、マネジメント経験、そして若手育成能力が高く評価されているためです。特にプロジェクトマネージャーやシステムエンジニアといった上流工程を担う職種では、人手不足感が強く、経験豊富な40代の需要が高まっています。

キャリア不安と年齢の壁

一方で、40代IT人材の約40%がキャリアに不安を感じており、70%以上がリスキリングの必要性を認識しています。転職を考える40代IT人材のうち4人に1人が実際に転職を検討していますが、転職を諦める理由として「年齢的な難しさ」が最多となっています。

この背景には、企業が40代に対して以下のような懸念を持ちやすいという現実があります:

  • 給与水準が高いが、コストに見合う働きが期待できるか

  • 社内のやり方やチームに馴染めるのか

  • 最新技術をキャッチアップできているのか

しかし重要なのは、企業が懸念しているのは年齢自体ではなく、「給与と成果のバランス」や「柔軟性」であるという点です。これらの懸念を払拭し、自身の価値を明確に示すことができれば、40代でも十分に転職可能な環境が整っています。

生成AIが変える職種別需要

影響を受けやすい職種

生成AIの普及により、一部の職種では需要減少や代替リスクが現実化しています。米国大手テック企業では、フロントエンドエンジニアの新卒募集を減らす動きが報告されており、生成AIで代替可能と見なされ始めています。

日本でも、以下のような職種でAIによる自動化が進んでいます:

  • データ入力や簡単な計算処理などの定型業務

  • レジ係や事務アシスタント(2030年までに計217万人が影響を受ける可能性)

  • カスタマーサービス担当者(AIチャットボットで代替)

  • 基本的なコンテンツ作成業務

大和総研の調査では、日本の就業者の約**80%が何らかの形で生成AIの影響を受ける可能性があり、そのうち約40%**が仕事の半分以上を自動化できると推計されています。

需要が急増する職種

一方で、AI時代に対応した新しい職種や専門スキルへの需要は爆発的に増加しています:

  • AIエンジニア:前年比143.2%増、生成AIや深層学習モデルの設計・学習を担当

  • AIソリューションアーキテクト:前年比109.3%増、企業の課題を踏まえAI導入の全体設計を実施

  • データエンジニア・データサイエンティスト:データ収集・加工基盤の構築、機械学習モデルの開発・運用

  • プロンプトエンジニア:大規模言語モデルへの適切な指示設計、平均年収818万円

  • セキュリティエンジニア:AIシステムやデータを守るセキュリティ設計

  • クラウドエンジニア:AWS/GCP/Azureなどクラウド環境での開発・運用

また、ITコンサルタントへの需要も継続的に高く、企業経営とIT活用が不可分になった今、調査・提案からシステムの開発・運用・保守まで一気通貫で担える人材が求められています。

40代IT人材に求められるスキルと戦略

即戦力性と専門知識

40代のIT転職では、20代・30代とは異なる観点でスキルをアピールする必要があります。最も重要なのは、転職直後から即戦力として働くための実務経験と専門知識です。

人手不足のIT企業は教育制度や研修制度が十分に備わっていないことも多いため、未経験からの転職であっても一定程度の専門知識は必須となります。特に40代は、20代・30代に比べてより専門性の高い知識・スキルの習得が望ましいとされています。

具体的には以下のようなスキルが評価されます:

  • 実務経験:豊富なプロジェクト経験とトラブル対応力

  • 技術選定能力:アーキテクチャの知見と最適な技術の選択

  • マネジメント能力:チームの中心的役割を担う力

  • コミュニケーション力:周囲との調整力と安定した対人関係構築能力

レガシー技術の価値

意外にも、古い技術への精通が大きな武器となるケースがあります。「2025年の崖」問題により、レガシーシステムの維持・刷新に精通した人材への需要が高まっているためです。

リクルートの調査では、COBOLが上位10プログラミング言語にランクインしたのは50歳以上のみでした。COBOLは1960年代から大規模システムで使われてきましたが、若手エンジニアで扱える人は極めて少なく、レガシーシステムの維持・刷新を行いたい企業にとって、50歳以上のITエンジニアはニーズにマッチする貴重な存在となっています。

実際の転職事例として、あるCOBOLエンジニア(50代、マネジャー)が、汎用機からクラウドへの移行経験を評価され、年収アップで役職定年のない事業会社への転職を果たしています。

リスキリングの重要性

一方で、過去の経験だけに頼るのではなく、継続的な学習とリスキリングが不可欠です。40代IT人材の約72%が「リスキリングの必要性は感じているが、具体的に何を学べばよいか分からない」という「リスキリング迷子」状態に陥っています。

効果的なリスキリングのステップは以下の通りです:

  1. 自己分析:これまでの経験で成果を出せた技術領域の特定

  2. 市場価値分析:求人数が多く、成長率が高い技術領域の把握

  3. ギャップ分析:現在のスキルと目標スキルの差を明確化

  4. 学習リソース選定:自分の学習スタイルに合った方法の選択

  5. 実践機会の確保:学んだスキルを実際のプロジェクトで活用

特に40代の強みは、技術知識だけでなくビジネスプロセスや組織の理解も深い点にあります。この強みを活かせる学習領域として、IT戦略、データ分析、クラウド、AI/MLなどが推奨されます。

過去の経験との掛け算

40代の転職成功の鍵は、「ゼロからの挑戦」ではなく、「これまでのキャリアをITに応用する」という発想です。

成功事例を見ると、以下のようなパターンがあります:

  • 製造業出身:工場向けシステムを扱う社内SEとして採用、現場知識を活かして改善提案

  • 営業出身:顧客折衝・要件定義に強みを発揮

  • 飲食業出身:マネジメント・コミュニケーションスキルを活用

過去のキャリアと新しいITスキルを掛け合わせることで、唯一無二の価値を生み出すことができます。

転職活動の現実的戦略

応募と準備のポイント

40代の転職活動では、以下の現実的な戦略が重要です:

  • 応募数を増やす:20-30社応募してようやく1-2社面接に進める心構えが必要

  • 資格取得:ITパスポート、基本情報技術者試験、AWS認定などで学習意欲を証明

  • 転職エージェントの活用:特にIT特化型のレバテックキャリアやマイナビIT AGENTを活用

  • 柔軟な働き方も視野に:派遣、副業、週3勤務など、多様な選択肢を検討

リモートワークと複業の可能性

2025年現在、IT業界ではリモートワークやハイブリッド勤務が一般的となっています。マイナビIT AGENTではリモートワーク可の求人が約4,000件、レバテックキャリアでは約1万件あり、週1-2日のみ出社という案件も多く見られます。

地方在住や短時間勤務、週3日勤務といった選択肢も登場しており、40代のライフステージに合わせた柔軟な働き方が可能になっています。また、複業(パラレルワーク)を許可する企業も増加傾向にあり、収入源の多様化も視野に入れることができます。

今後の展望

日本のIT業界は当面安泰

米国でのAI関連リストラが話題になっていますが、日本のIT業界においては当面の間、そうした大規模な淘汰は起こりにくいと考えられます。

その理由として:

  • 深刻なIT人材不足:2030年までに79万人不足の予測

  • DX推進の遅れ:企業の85%がDX人材不足を認識

  • レガシーシステムの維持需要:「2025年の崖」問題への対応

  • AI導入の遅れ:日本企業の生成AI利用経験率はわずか9.1%

実際、IT業界専門メディアでも「アメリカで起きた大手コンサルティング会社の大量リストラが話題ですが、IT革命が発展途上の日本国内では、そうした事例は極めてレアケース」と分析されています。

40代IT人材へのアドバイス

40代IT人材が今後も市場価値を維持・向上させるためには、以下の行動が推奨されます:

  1. 継続的な学習:生成AI、クラウド、データ分析など、需要が高まる分野のスキル獲得

  2. 市場価値の定期確認:転職サイトに登録し、自分の経歴でどんな求人があるか確認

  3. 副業・複業の検討:会社員収入だけに依存しない仕組みの構築

  4. ネットワーク構築:コミュニティ参加や勉強会での人脈形成

  5. 過去の経験の言語化:自分の強みを明確に説明できるよう準備

まとめ

2025年下期の日本IT転職市場は、40代にとって決して悲観すべき状況ではありません。米国でのAI関連リストラが注目を集める一方、日本では深刻なIT人材不足が続いており、経験豊富な40代への需要は高い水準を維持しています。

重要なのは、過去の経験に安住せず、継続的な学習と市場ニーズへの適応です。生成AIやクラウドなど新技術を学びつつ、40代ならではの豊富な実務経験、マネジメント能力、ビジネス理解力を掛け合わせることで、唯一無二の価値を発揮できます。

「35歳転職限界説」はすでに過去のものとなり、むしろ40代こそが転職市場で大きなチャンスを掴んでいるというデータもあります。年齢を理由にキャリアの可能性を狭める時代ではなく、これまでの経験を武器に、より良い条件、よりやりがいのある仕事へステップアップできる環境が整っているのです。

AI時代の到来は確かに雇用環境を変化させていますが、日本においては当面の間、人材不足が続く見込みであり、適切なスキルと戦略を持つ40代IT人材にとっては、新たな可能性が広がる時代と捉えることができるでしょう。

参考文献・情報源